旧中山道の宿場町・醒井宿で、400年近くの歴史を刻んできた料理屋「多々美家(たたみや)」。もとは旅籠として旅人を迎え、その後旅館、そして料理屋へと姿を変えてきました。現在は、女性部員である能勢樹美さん達ご両親と若き料理人である能勢万穂さんがお店を支えています。今回は、若い感性で新たな挑戦を続ける万穂さんにお話を伺いました。

親の背中を見て育ち、自然と芽生えた料理への想い
ご両親の姿を見ながら育った万穂さん。「土日も夏休みも遊びに行けない…」と、子どもの頃は大変そうと感じていたそうですが、次第に料理や商いに興味を持つように。「12代続く家業を、誰かが受け継がないと…と思ったとき、私がやろうと自然に思えたんです」。
そして今、改めて当時を振り返ると、「忙しい中でも育ててくれて、遊びにも連れて行ってくれたこと、本当にすごいなと思う。尊敬と感謝の気持ちでいっぱいです」と語ってくれました。
高校卒業後は料理学校で1年間学び、その後、京都の老舗料理屋で3年間修行。お母さんの樹美さんが脳梗塞で倒れたことをきっかけに、予定より早く地元へ戻る決意をされました。

料理へのこだわりと世代の感性
「同じ食材を使っても、父の盛り付けと私の盛り付けは全然違うんです」と万穂さん。
12代目であるお父さんは娘の感性を尊重し、新しい盛り付けや味付けにも理解を示してくれるとのこと。
「お互い頑固なところはあるけど、父と娘だから、バチバチにはならない(笑)母は中立で自分の意見をしっかり言ってくれます」。
三人の共通点は、「良いものを作ってお客様をもてなしたい」という強い想い。家族で力を合わせて、丁寧な料理と心温まるおもてなしを続けています。

唯一無二のジンジャーエールと、鮮度勝負の川魚料理
お店の名物のひとつが、万穂さんが開発した自家製ジンジャーエール。コロナ禍で客足が減った時期、自分自身がお酒を飲めないことから「飲まない人も楽しめる一杯を」と開発。スパイスの調合から試行錯誤を重ね、爽快感と料理との相性にこだわり抜いた大人向けの一杯に仕上げました。
料理では「鱒づくしコース」や「うなぎ料理」が人気。いずれも注文を受けてから生け簀から取り出し、捌きたてを提供。鮮度にこだわった川魚の美味しさを、存分に味わえます。
「川魚が苦手って言う人は、本当に鮮度の良いものを食べたことがないだけかも。洗い(冷水でしめた刺身)は、刺身よりも捌きたての良さが出るので、鱒づくしコースでぜひその美味しさを味わってほしいです」。注文から40分ほどお待たせしてしまうこともあるそうですが、「景色を見ながら町の雰囲気を楽しめて、それもまた贅沢」と、お客様からも好評です。


SNSと61マルシェで地域を元気に
帰郷当初は、店のホームページやSNSもなく、「これではやっていけない」と感じた万穂さん。自身でインスタグラムを開設し、店の魅力を発信しはじめました。
「自分の店だけが潤えばいい、じゃない。地元全体が元気になってほしいんです」と今では、地域活性化イベント「61マルシェ」の実行委員を務められ、若い世代として地域の魅力発信に力を注いでいます。「地元で商売している若い人は私しかいない。だからこそ、自分にできることは全部やりたい」と語る姿が印象的でした。


自分らしく、毎日楽しく生きる
「今の仕事、毎日楽しいです!」と笑顔で話す万穂さん。修業時代には人間関係の難しさもあったそうですが、今は家族が相手だからこその安心感があるとのこと。
お笑いライブやスノーボード、車の運転が大好きで、「ライブに行く予定を立てて、それを楽しみに仕事を頑張る」とリフレッシュの方法も教えてくれました。お母さんの樹美さんにも、リフレッシュの方法をお聞きすると「昔ピアノの先生をしていたこともあり、ミュージカルの観劇が好きなんです。最近では娘がチケットを取ってくれるライブに行くのも楽しみで、来年のレディー・ガガのライブをモチベーションに仕事を頑張ってます」と万穂さんと行くライブが仕事の活力になっているようです。
「いつどうなるかわからないから、いつ死んでも後悔しないくらい毎日楽しもうと思ってます」。そう笑顔で話す万穂さんからは溢れるエネルギーを感じました。
趣味も仕事も全力で楽しんでおられる万穂さん。今後も、若い感性とお客様をもてなす心で、多々美家は、これからも地域に愛され続けることでしょう。

