滋賀県米原市世継にある「有限会社 魚万商店」は、明治初期に創業し、琵琶湖の魚を中心とした淡水魚・鴨・鮒寿司の卸売業を営まれています。小鮎やモロコ、そして天然うなぎまで、湖が育んだ魚を料理店やホテル、地元の飲食店へ届けています。
湖の恵みを届け、受け継がれてきた商いを守っておられる世森朋子さんに、お話をうかがいました。

歴史と未来をつなぐ
魚万商店は、代々続く湖魚を中心に鮮魚の卸売りを営む家業で、朋子さんは旦那さんのご逝去を受け、お母さまとともに商いを続けてこられました。創業は4代~5代ほど前にさかのぼり、地域に根ざした存在です。
仕入れ量の制約や環境の変化を乗り越えながら、琵琶湖の美味しい魚をたくさんの方に届けるべく努力されています。

湖の環境変化がもたらすもの
最近では琵琶湖の環境変化で、魚の数が減っているとお話してくださいました。湖の水がきれいになりすぎて、プランクトンが少なく、魚の餌となる生き物が減っている。雪が降らず、水が循環せずに酸素が行き届かず、湖底が「深呼吸」できないといった変化が続く中で、価格や量にも影響が出てきているのだそうです。
加えて、漁師さんの高齢化も進んでおり、「今は70代や80代の方々が現場を支えているんです。私の親世代が“若手”という状況なんですよ」と、笑顔でお話しくださいました。
そんな中でも、魚万商店では琵琶湖内の沖島や彦根の漁師さんとのつながりを大切にした仕入れ体制を続けています。

取り扱う食材について
魚万商店では、小鮎・モロコ・コイ・フナ・うなぎなど、多様な湖魚、淡水魚や鴨も取り扱っています。
「小鮎(コアユ)」は、琵琶湖で育つ鮎の稚魚で。骨ごと丸ごと食べられ、滋賀ならではの名物です。「岐阜でも鮎は有名だけど、この小鮎は滋賀だけなんですよ」と朋子さん。
そして「モロコ」は、焼くときに頭を下にして焼くと余分な油が落ちて、美味しく仕上がるのだと教えてくださいました。
「うなぎ」は、琵琶湖の天然ものと並行して、静岡・台湾・中国産の養殖品も取り扱われています。琵琶湖の天然うなぎは、腕ほどの太さに育つこともあり、1kgあたり数万円で取引されることも。東京への出荷が多く、珍重される存在です。
「鴨」は新潟から冷凍で仕入れ、魚万商店で丁寧に下処理を行っています。処理には資格が必要なため、資格を持ったスタッフが対応。「昔は琵琶湖の網にイノシシや鹿がかかることもありましたよ」と、先代から聞いたという懐かしいお話もしてくださいました。

新しい挑戦—鮒ずしパウダー
注目の新しい取り組みが、鮒ずしのご飯部分をパウダー化した商品です。これまで捨てられていた部分を有効活用し、チーズ風味のようなコクを引き出しました。乳製品が苦手な方やアレルギーのある方にも安心して楽しんでいただけるよう工夫されており、地元食文化の新たな形として注目されています。
このパウダーは、ケーキやクッキーなどのお菓子作りはもちろん、パン生地に練り込むなど、いろいろな料理に活用されているとのこと。

世森さんの「いきいき」とは?
世森さんご自身の“いきいき”とはご自宅で共に過ごす愛犬と愛猫との時間。二匹はとても仲が良く、その様子にご家族も「かわいい」と微笑まれているとのことです。
忙しい日々の中、動物たちと過ごす時間は何よりの癒やし。「いてくれるだけで癒やされる」と語られ、優しい暮らしの風景が伝わってきます。
世森さんのお話を聞いて、魚のこと、琵琶湖のこと、そして今の漁業の現状まで、知らなかったことがたくさんあると気づかされました。
変わりゆく湖の環境の中で、できることを少しずつ。世森さんのお話には、背伸びせず自然体で過ごす日常がにじんでいました。これからも魚万商店が、琵琶湖と地域のさかな文化をつなぐ存在であってほしいと思います。
