米原市醒井。中山道沿いを流れる地蔵川のせせらぎと、四季折々の風景が広がるこの町に、「和cafeたち季(わかふぇ たちき)」はあります。
今回は、「和cafeたち季」を営む立木厚子さんに、これまでの歩みや、今の思いをお聞きしました。
ご近所の古民家から始まった、カフェへの挑戦
カフェがある建物は、もともと厚子さんのご自宅の近くにあった古民家でした。
持ち主はご近所の方で、「引っ越しをして、家を空き家のままにしておくより、買ってもらえないか」と声をかけられたのが始まりだったそうです。
「大きな決断だったので、正直、迷いました」と厚子さん。
けれども、「知らない人が住むより、自分で使った方が安心かな、と思ったんです」と振り返ります。
長く空いていた古民家でしたが、奥行きのある造りや、昔ながらの建具に魅力を感じ、思い切って購入を決めました。

「購入後、この家をどう活かしていこうかと考える中で、自然と浮かんできたのが“人が集える場所”というイメージでした。」
もともと厚子さんは、お菓子作りが好きで、子どものためにおやつを作ったり、家族や周りの人に振る舞ったりしてきました。
そんな日常の中で、「観光で訪れる人が、少し休める場所があったらいいな」という思いが、少しずつ芽生えていったといいます。
醒井は、夏には多くの観光客が梅花藻鑑賞に訪れますが、地蔵川の湧水のそばで足を止めても、気軽に立ち寄れるお店が少なかったことも、カフェを始めることへの背中を押した理由の一つでした。
こうして2011年、まずはドリンクを中心に、夏場はかき氷を出すところから、無理のない形で「和cafeたち季」はスタートしました。
「できることから、少しずつ」。そんな思いで始めたカフェは、今年(2025年)で14年目を迎えます。
今も変わらない、かき氷と地元食材へのこだわり
現在も、たち季の看板メニューはかき氷です。
ふわふわに削った氷に、地元の素材を生かしたシロップやトッピング。毎年少しずつ新しい工夫を加えながら、訪れる人を楽しませています。
「地元のものをできるだけ使いたい」という思いは、開店当初から変わりません。
「かき氷 抹茶みるく金時」と「抹茶セット」には地元の和菓子屋さん「丁子屋製菓」の水まんじゅうを、「かき氷 いちごみるく」には「こはら農園」さんのいちごを、ランチのお味噌やお醤油は「醤油屋喜代治商店」の商品を使い、作った人の顔が見えるお店のものを紹介しています。
最近ではランチの要望も増え、ニジマスの漬け丼や、おむすびランチなど、軽めでも満足感のある食事を提供されています。ランチメニューも、地元料理屋「虹鱒料理おたべ」さんに漬けをお願いするなど、地元のお店とのつながりを大切にされています。

古民家を活かす、細やかなこだわり
店内を見渡すと、さりげないところに厚子さんのこだわりが感じられます。
店舗の家具や備品等は、厚子さんご自身が地元のお店を回って選んだもの。ランプシェイドを自作された照明もあります。やわらかな灯りが、古民家ならではの落ち着いた空間を優しく照らしています。
窓ガラスには、お店のロゴマークを厚子さん自らプリント。業者任せにせず、「自分でできることは、自分でやってみる」という姿勢が、店づくりの随所に表れています。

ロゴマークには、醒井の風景を象徴する「梅花藻」と、「和」の雰囲気を大切にした想いが込められています。
また、「和cafeたち季」という店名には、カフェの和の空間の中で、訪れる人に季節の移ろいを感じてほしいという願いが込められています。
古民家がもともと持っていた趣を大切にしながら、現代のカフェとして心地よく整えられた空間は、訪れる人に落ち着きを与えてくれます。

人が集まる場所としての「たち季」──これからの展望
コロナ以前には、月に1回ほどワークショップやライブも開催されていました。人気の企画が多く、地域の方や観光客が自然と集まる場になっています。一方で、企画や準備、宣伝までをひとりで担う大変さも、実感されたそうです。「楽しいんですけどね、やる側はなかなか大変で」と、厚子さんは笑います。それでも、人が集い、話し、つながる時間そのものに、大きな意味を感じておられました。
これからについては、無理のない形で、少しずつ。
まず考えているのが、厨房の改装です。「もう少しスペースがあれば、地元の食材を使った体にやさしいランチも、もう少しできるかなと思って」と話してくださいました。
さらに、菓子製造の許可を取得し、お菓子や惣菜づくりにも挑戦したいという思いも。これまでお店で出してきた手づくりのお菓子や軽食を、より幅広い形で提供できたら——そんな構想を、ゆっくりと温めているそうです。
今後も、観光客だけでなく、地域の人が気軽に立ち寄れる憩いの場として。たち季らしいペースで、できることを少しずつ重ねていきたいと考えておられます。

立木厚子さんの「いきいき」
厚子さんの“いきいき”を語るうえで欠かせないのが、カメラと人との出会いです。
もともとは、カフェのメニューをきれいに撮りたいと思ったのが、カメラを始めたきっかけ。ところが使っていくうちに楽しさが増し、今ではすっかり趣味に。「料理をおいしそうに撮るのは難しいですね。でも、お店の雰囲気も一緒に残したくて」そう話しながら、光の入り方や空間の表情を切り取る時間は、夢中になれるひとときだそうです。
車を運転していても、「あ、撮りたい」と思って思わず止まりたくなることも。カメラのセミナーに参加して少しずつ上達するのがうれしく、「人生、変わったかもしれませんね」と笑顔を見せてくださいました。
また、他のお店のカフェを訪れるのも好きで、ご主人や娘さんと一緒に出かけることも多いそうです。「いいな、と思ったところは勉強になりますし、自分のお店づくりの参考にもなります」と話され、日常の中で感じたことを、無理なく自分のスタイルに取り入れています。
そして、お店を通して出会った人とのつながりも、厚子さんにとって大きな財産です。「ここをやっていなかったら、出会えなかった人がたくさんいます」と、厚子さんは穏やかに語ります。
カメラを通して、そして和cafeたち季という場所を通して広がったご縁。そのひとつひとつが、厚子さんの毎日をいきいきと彩っています。

醒井の町に寄り添いながら、14年続いてきた「和cafeたち季」。
観光で訪れる人がほっとひと息つける場所として、また地域の人が気軽に立ち寄れる憩いの場として、厚子さんは、できることを少しずつ積み重ねてこられました。
これからも新たな挑戦を視野に入れながら、「また来たい」と思ってもらえる場所であり続けたい——そんな思いが静かに伝わってきます。
醒井を訪れた際には、ぜひ足を止めて、やさしい時間を感じてみてはいかがでしょうか。