伊吹地域で140年あまり続く料理屋「谷孫」。かつて宿場町として栄えたこの地で、仕出しや宴会料理を中心に、多くのお客さまに親しまれてきました。屋号の由来は初代・谷川孫治郎さんにさかのぼり、今でも地元の方からは「孫治郎さん」と呼ばれることもあります。
現在は5代目のご主人・薫さんと、その奥さま有希さんを中心に、ご家族が一丸となって営んでいます。今回は、料理屋という家業に嫁ぎ、日々奮闘しながらも笑顔で支える有希さんにお話を伺いました。

京都から伊吹へ——料理がつないだご縁
有希さんは京都・山科のご出身。実家は家業をしていなかったため、「料理屋を家族で営む」という世界は結婚するまでまったくの未知でした。ご主人との出会いは調理師学校の同級生。高校時代から喫茶店などでアルバイトをしていたこともあり、料理の道を選んだ有希さんでしたが、その先に「料理屋に嫁ぐ」という未来が待っているとは思っていなかったと振り返ります。
結婚後は、長く続く家業に飛び込むかたちで伊吹の地へ。最初は慣れない環境に戸惑うこともありましたが、今では調理や接客を明るく担い、お義母さんと共にお店全体を支える存在に。笑顔でお客さまを迎える有希さんの姿は、お店の温かい雰囲気そのものになっています。

看板料理は「うなぎ」と「幕の内弁当」
谷孫の名物といえば、秘伝のタレを継ぎ足して受け継ぐ「うなぎ」。香ばしく焼き上げたうなぎは、地域のお客さまから「谷孫さんのうなぎは格別」と評判です。三河産を中心に国産を仕入れており、予約をすれば一年を通じて楽しむことができます。
また、仕出しや幕の内弁当も人気で、「量も質も大切に」という思いが込められています。「都会のように小さな上品さより、田舎らしくしっかりと食べ応えのある料理を」という心意気は、多くのお客さまに喜ばれてきました。
お寿司も自慢の一品。新鮮な魚を厚めに切ったネタは食べ応えがあり、谷孫らしさが表れています。お米や野菜も自家栽培のものを使い、秋にはお義父さんが作る干し柿がお弁当に添えられることもあり、「美味しい」とお客さまから好評だそうです。

家族で営むからこその強さと大変さ
厨房ではお義父さんとご主人が魚の下ごしらえを担当し、有希さんやお義母さんが全体を見ながら料理や接客を支えます。忙しい時期には親戚が駆けつけるなど、まさに「家族の総力戦」。
「子どもが小さい頃は特に大変でした。土日は遊びに連れて行けないことが多く、平日に時間を見つけて一緒に過ごしました。背中に子どもを背負いながら仕事をしたこともあります。」
そう語る有希さんの言葉には、家業を守りながら子育てをしてきた日々の重みと、それを乗り越えてきた強さが感じられます。 それでも、「家族で営んでいるからこそ、何とかやっていける」と笑う有希さん。代々のやり方を引き継ぎつつ、家族が役割を分担し合うことで、谷孫の歴史は脈々と続いてきました。

甘いものと外食でリフレッシュ
忙しい日々のなかで、有希さんの楽しみは「甘いもの」。
「ケーキもおもちも大好きで、スーパーで買ったり、米原市春照にある大和屋さんで草餅を買ったりしています」と笑います。
さらに、製菓を学んだ娘さんが作ってくれるお菓子は格別。チーズケーキやクッキー、パウンドケーキなど、時にはリクエストに応えてくれることもあり、家族の食卓を笑顔で満たしています。
また、家族での外食も大切な楽しみのひとつ。「よその料理を食べたくなるんです」と語るように、新しい味に触れることで、自分の仕事にも刺激を受けているのだとか。

未来への思い——子どもたちとつなぐ店へ
有希さんには、ひそかに願っている夢があります。
「子どもたちが外で学んできたことを、このお店にも活かせたらと思うんです。たとえば、娘の作ったケーキをデザートにして、コーヒーと一緒に楽しんでもらえるようにだとか…。今風に、若い人向けのメニューも提供できたらいいですね。」
伝統を守りつつ、子どもたちが新しい風を吹かしてくれる日を夢見ながら、今日もその素敵な笑顔でお客さまをおもてなしています。
