
醒井の清らかな湧き水が流れるこの地で、明治時代から醤油づくりを続けてきた「醤油屋喜代治商店」。今年、創業120年という大きな節目を迎えます。江戸時代末期に建てられた趣ある建物の中で、現在は4代目のご主人とともに、江竜佳子さんが家業を支えています。

結婚して知った、老舗の家業
佳子さんは、サラリーマンと農家の家庭で育ちました。お見合いをきっかけにこの家へ嫁ぎ、結婚してから初めて「家業で醤油屋をしている」ということを知ったといいます。当時は、お話し好きなお義母さんが店番をしてくれており、その存在がとても大きかったそうです。佳子さんはお店をお義母さんにお任せして子育てに専念しながら、ラベル貼りや事務作業など、できることから家業を手伝ってきました。「最初から前に出ていたわけではなく、少しずつ関わっていった感じです」と、当時を振り返ります。
創業の原点は「水のきれいな醒井」
醤油屋喜代治商店のルーツは、下丹生の酒屋の次男として生まれた初代・江竜喜代治さんが、水のきれいな醒井の地を選び、醤油屋を始めたことにあります。醤油や味噌づくりに欠かせない水。その質の良さが、この場所を選んだ大きな理由でした。現在も、味の決め手となるのは醒井の水と麹。現在の麹菌は外部から仕入れていますが、長年培ってきた配合と工程により、「おいしい」と言ってもらえる味を守り続けています。
時代に合わせた商品づくり
ご主人が4代目として店を継いだ頃、醤油だけでは経営が厳しくなる時代を迎えました。そこで、低塩醤油やポン酢、だしつゆなど、時代のニーズに合わせた商品展開を進めてきました。
佳子さんが嫁いだ30数年前には、平和堂米原店や長浜のアルプラザの中に「デリカやまき」という寿司店も展開していました。寿司店を始めたのも、「醤油を残すため」。現在は長浜市八幡東町にある「寿司やまき」を経営し、息子さんが切り盛りしています。

実は一番人気は「味噌」
醤油屋喜代治商店といえば、多くの方が醤油を思い浮かべますが、実は一番人気の商品は味噌。かつて向かいに麹屋があったことをきっかけに味噌づくりを始め、今では地元の飲食店や学校給食にも使われています。醒井の水で仕込まれた味噌は、やさしい味わいで評判がよく、「おいしい」と言ってもらえることが何よりの励み。長浜の保育園に卸した味噌を食べた子どもが、「おいしかった」と家族と一緒にお店に買いに来てくれたこともあり、食を通じて地域とつながっていることを実感したそうです。

食育活動で、次の世代へ
5~6年前からは、食育活動にも取り組んでいます。地元小学校の4年生に味噌づくりを教え、翌年5年生になると、その味噌を使って調理実習を行う取り組みです。子どもたちは、原料や発酵の話に興味津々。自分たちで仕込んだ味噌を使って料理をする経験は、食べ物への関心を深めるきっかけになっています。
観光客に向けた挑戦も
夏場は梅花藻を目的に観光客が多く訪れる醒井。通りに気軽に入れる飲食店が少ないことから、ご主人の発案で夏場は「醤油ソフト」を販売しています。醤油ソフト専用に作った醤油は風味が飛びやすく保存がきかないため、ここでしか味わえない限定の味です。
これまでには、びわマス丼や醤油プリン、カフェ、うどんなどにも挑戦。地域のことを考えながら新しい取り組みを重ねてきました。佳子さんは、そうしたご主人のアイデアを支え、家族で力を合わせて店づくりを続けています。
佳子さんの“いきいき”
現在65歳。「あと10年、75歳までは誘われたらどこにでも遊びに行こうと思っています」と、これからの人生も前向きです。美術館巡りや仏像鑑賞、最近ではしまなみ海道を訪れ、美しい景色に心を動かされたそうです。女性部事業で色んなところに行けるのも楽しみの一つで、毎年、研修旅行や近江いいことウォーク(滋賀県内の様々な地域を歩いて、魅力を再発見する事業)に参加できるのも、とても楽しみにされています。

受け継がれる想い、これからの100年
今年で120年。家業は息子さんへと受け継がれます。「あと100年やっていきたい」と話す息子さんの言葉に、佳子さんは「私は、息子についていくだけ」と穏やかに語ります。
2年前からお試しで味噌づくり講座もスタート。地域やお客さんの声に耳を傾けながら、必要とされることを続けていきたいと考えています。
醒井の水と、人の手と、地域への想い。醤油屋喜代治商店は、これからも変わらぬ味を大切にしながら、次の世代へと歩みをつないでいきます。